社内恋愛のススメ



明るい栗色の短めの髪。

くっきりとした顔立ちが、彼女のボーイッシュさをより際立たせる。


動きに合わせて、彼女の短い髪がサラリと揺れて。



真新しいパンツスーツ。

女子社員の中では珍しいスタイルは、彼女にぴったり。


女子社員は9割方、ジャケットにスカートを合わせているのに。

男ウケをしたたかに狙って、惜しげもなく競って足を出しているのに。



彼女は違う。

普通の新入社員とは、普通の女子社員とは何かが違う。


それを感じ取った、わずかな瞬間。



「彼女は、有沢さん。今日から企画部に配属された、新入社員だ。」


部長がそう言って、目の前に立つ彼女を紹介してくれた。



ペコリと、彼女が部長の言葉に合わせて頭を下げる。


固い表情。

遠慮がちに向けられる視線。



無理もないだろう。


入社式が終わって、きっと数時間。

自分の配属先を発表されて、そのままこの場所に連れて来られたはず。


わずかに目を赤くした彼女に、声をかける。

決して、優しくない声音で。



「有沢さん、だっけ?」

「はい!」


元気だけはあるみたいだ。

先生に当てられた小学生の如く、大きく返事をしている。



こっちは、そんなに興味もない。

感慨もない。


面倒だけど引き受けようと思ったのは、上司である部長の目を気にしてのこと。


この時は、彼女に惹かれている訳ではなかった。



「君の教育係に選ばれたから、………まあ、よろしく。」


適当に、冷たく挨拶をした。


礼儀として、挨拶をしたまで。

これからしばらく関わることになるだろうから、一応言葉を軽く交わそうと思っただけ。


そんな僕に、彼女は可愛らしく微笑んでくれた。

冷たくしていただけの僕に、彼女は。



「有沢 実和です。今日から企画部に配属されることになりました。よろしくお願いします!」


有沢 実和。

それが、ボーイッシュな彼女の名前。


他の女子社員とは毛色が違う、彼女の名前。



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