社内恋愛のススメ



「有沢さんの番号、前と同じ?」


上条さんはそう言って、真っ黒な携帯電話のディスプレイを私に見せる。


夜の闇の中にぽっかりと浮かぶ、ディスプレイの明かり。

その明かりの中に映し出されていたのは、私の名前と携帯電話の番号。




そうだ。

入社したばかりの頃、私は携帯電話の番号を上条さんに教えていたのだ。


教育係になった、その日のうちに。



「一応、番号教えて。何かあった時に連絡つかないと、僕が困るから。」


何かあった時。

その時を、どれだけ心待ちにしていたことか。


結局、その時は来なくて。

上条さんからの電話がなかったせいで、私は上条さんの番号を知らないままだったけれど。



「変わってないですけど………。」


そう答えた私に、上条さんは意外な言葉を投げかけた。



「今度、食事にでも行かないか?」

「し、食事………って?」


食事って、接待のこと?

それとも、プライベートでの食事ってこと?



接待での食事なら、会社で伝えれば済むこと。

業務に関係することなのだから、わざわざ連絡を取り合うまでもない。


連絡を取り合う。

その必要があるのは、その誘いがプライベートでの誘いであるから。



「有沢さんの予定が空いている時で構わない。」


それは、天から降ってきた幸運。


私がずっと欲しくて、だけど言ってもらえなかった言葉。

望んでいた。

出会った頃から、この言葉をずっと待っていた。


まさか、上条さんから、この言葉を聞ける日が来るなんて。



「………。」


言葉を失う私。

そんな私を見て、焦れた様子で上条さんが答えを急かす。



「ダメか?」


そんなの、決まってる。

出会ったあの日から、決まってる。



「全然大丈夫です!」



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