社内恋愛のススメ



ずっと憧れていた人。

目で追いかけていた人。


告白さえ出来ずに、行ってしまったあの人の名前。



ドキン。

ドキン、ドキン。


心臓が、これでもかというほどに速いスピードで脈を打つ。



体の中を駆け巡る赤い血と、飛び跳ねる鼓動。

その2つに負けない、心の動き。


電話がかかってきた。

それだけで、この状態。



(………、中学生じゃないんだから!)


初めて恋をした訳じゃない。

今まで、誰とも付き合ったことがない訳じゃない。


それなりに恋愛経験だってある。

まぁ、他の人よりは断然少ないとは思うけれど。



私は、大人。

子供じゃない。

中学生でもない。


落ち着け。

落ち着くんだ。


そう言い聞かせて、私は通話ボタンをグッと押した。



「も、もしもし!」


動揺のあまり、言葉に詰まる。

電話の前だというのに、何故か背筋がシャキンと伸びてしまう。


まるで、目の前に上条さんがいるみたい。



ソファーでくつろいでいた体は、いつの間にか正座の形。


きっと笑われちゃう。

こんな姿を見られたら、上条さんに笑われてしまうだろう。


今の私の姿を知らない上条さんは、電話の向こうでこう言った。



「有沢さん?」


いつもと同じ。

クールで冷静で、揺らがない人。


スマートなその人は、電話でも変わらないらしい。



「はい!えっと………主任、こんばんは。」



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