社内恋愛のススメ



頭が真っ白になる。

何を話したらいいのかなんて、その声が耳に入った瞬間に吹き飛んでしまった。


とりあえず、挨拶。



会社以外で、上条さんと会話をしたことはない。

歓迎会や送別会の時くらいなもので、そういう場以外の彼を知らないのだ。


会社でも、プライベートな話は一切しない。



戸惑う私をよそに、上条さんは軽くフッと笑う。

本当に笑っているかどうかなんて分からないけれど、そんな気がしたんだ。


優しい空気。

穏やかな雰囲気が、そこにある。


優しい空気を身に纏う上条さんが、単刀直入にこう尋ねてきた。



「有沢さん、明日って暇?」

「え?明日………ですか!?」


明日。

ゴールデンウィークの初日である明日の予定は、見事なくらいに空白。



連休中に、実家に帰るつもりはない。

友達と遊ぶ予定もない。


やることなんてなくて、ダラダラしようなと思っていたくらいだ。



寂しい。

寂し過ぎる。


この予定の空白っぷり。



「暇ですけど、どうしたんですか?」


何の予定もないのは虚しいけれど、隠したって仕方ない。

ありのままを、正直に上条さんに伝える。


すると、上条さんはこう囁いた。



「明日、一緒に出かけないか?君さえ、良かったらだが………。」


一緒に出かける?

誰と、誰が一緒に出かけるの?


もしかして。

もしかして。


私と上条さんが、一緒に出かけるの?



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