社内恋愛のススメ
こんな風に夢を見るのは、許されるのだろうか。
だって、私は上条さんの部下。
だけど、ただの部下じゃない。
他人だけど、他人じゃない。
きっと、深い所で繋がってる。
(………うん、そうしよう。)
いつ、この雨が止むかは分からない。
だけど、この雨が止んだら。
空に、私の好きな太陽が戻ってきたら。
その時は、誘ってみよう。
大好きなあの人を、昼食に誘ってみよう。
浮かれる私の耳に、ある会話が入り込んできた。
「ねぇ、知ってる?」
「何が?」
どこにいても聞こえてくる様な、そんな噂話。
嫌いではないけれど、私はそういう話を積極的にする方ではなくて。
どうにも、社内のそういった話には疎い。
(何か、これじゃあ、立ち聞きしているみたい………。)
そんなつもりはないけれど、話を勝手に聞いているという事実は変わらないから。
きっと、これも立派な立ち聞き。
あんまり気分がいいものではない。
早く立ち去った方がいい気がする。
そう思って、スッと立ち上がる。
だけど、次の言葉が聞こえた瞬間、私の体は氷の様に固まってしまった。
「企画部の上条主任、知ってる?」
「当たり前じゃん!あの格好いい主任、社内なら知らない人はいないんじゃない!?」
「その上条主任、結婚するんだって!」
「ええ!?嘘でしょ?」
(え………?)
嘘でしょって、それはこっちの台詞なんですけど。
もしかして、バレた?
上条さんとのことが、誰かにバレてしまったのだろうか。
上条さんと、2人で決めていたのに。
社内での仕事が、やりにくくならない様にって。
周りの人間に気を遣われるのが鬱陶しいから、今はまだ黙っておこうって………決めたのに。
細心の注意を払っていたつもりだった。
それなのに、上条さんとの関係が誰かにバレてしまったのだろうか………。