社内恋愛のススメ
どうしよう。
どうしよう。
上条さんが困る。
上条さんに迷惑がかかる。
それだけは嫌だ。
重荷になりたくない。
上条さんのお荷物にだけはなりたくない。
そんな存在になりたくて、あの夜、上条さんの手を取った訳じゃない。
上条さんは怒らない。
怒りはしないけど、上条さんが困るのは確かだ。
上条さんだけじゃない。
私だって、それは同じこと。
(そ、相談しなくちゃ………。)
こんな所で、のんびり噂話を聞いてる暇はない。
上条さんに相談しなくちゃ。
携帯電話をギュッと握り締め、上条さんの顔を思い浮かべる。
相手は自分だと信じて疑わない私に聞こえてきたのは、残酷な言葉。
「相手は、取引先のご令嬢だってさ。さすが、上条主任!」
「あー、やっぱり。だって、あの人、社内で女連れてる所なんか見たことないもんね………。」
「モテるのに、同じ会社の女子社員には手を出さないって有名じゃない?」
「玉の輿だよね、一種の。」
「有能な人は違うよね!!」
ただの噂にしては詳し過ぎる内容が、社員食堂の中を闊歩している。
もっと適当な話なら、聞き流せたのに。
ガタンと、持っていた携帯電話が音を立てて、食堂の床に落ちた。
(取引先のご令嬢………。)
それって、私じゃないよね。
だって、私は普通の社員。
一般家庭で生まれて育った、普通の子供。
間違っても、ご令嬢なんて大層な身分じゃない。
私じゃない。
みんなが噂してるのは、私のことじゃない。
上条さんの相手は、私なんかじゃない………。