社内恋愛のススメ



ザァーー……


降りしきる雨が、窓を曇らせる。


梅雨独特の肌寒い空気。

湿り気を帯びた空気が、エアコンの効いているはずの社内にまで入り込む。


肌寒い空気は私の心の中にまで入り込み、芯から冷えさせていた。






「はぁ………。」


今日、何度目かの溜め息。


重たい空気を纒う私を、溜め息が更に下へと引き摺り込んでいく。



下に下に沈んで、浮き上がれない。

這い上がれない。


まるで、井戸の底に閉じ込められている様な気分。


しかし、出てしまう溜め息を、無理に抑え込むことも出来ずにいる。



(仕事、仕事………。)


仕事しなくちゃ。

私はここに、溜め息をつきに来てるんじゃない。



念仏の様に仕事という単語を唱え、パソコンのキーボードを叩く。


トントントン。

小気味いい音を立てて、文字を素早く打っていく。



こんな時でも仕事が出来てしまうのは、仕事人間だからなのだろうか。


あぁ、悲しい。

仕事人間な自分が悲し過ぎる。



目線の先には、上条さんの姿。

溜め息をつく度に、ついつい向けてしまう視線。


見たくないのに。

それでも、目だけは彼の姿を未だに追い続けてしまう。



上条さんは知っているのだろうか。


自分の噂。

それも、結婚に関する噂が流れていることを。



噂が流れていることを知っているのかどうかさえ、分からない。

確かめられない。


何も確かめられずに、ただ見つめているだけだ。



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