社内恋愛のススメ



「お弁当を作ってきたんです。仁さんのお口に合えばいいんですけど、良かったら召し上がって下さい!」


文香さんがそう言って、包みの中身を見せる。



周りから見たら、幸せな光景。


婚約を控えた若い2人と、そんな2人を優しく見守る父親。

ほのぼのとした光景。


しかし、私にとって、それは残酷なものでしかなかった。



(もう、嫌だっ………!)


見たくない。

あんな2人、もう見たくない。


見れないんだよ。

だって、私なんかよりもずっとお似合いだから。



仕事が出来て、しかも格好いい上条さん。

主任にまで昇格して、出世コースをひた走る人。


そして、生まれも育ちもいい文香さん。

完璧な容姿まで揃ってる、お嬢様。



誰が見ても、お似合いの2人。

絵になるカップル。


それに比べて、私はどうなんだろう?



一般家庭で育った、普通の子供。

生まれも育ちも、決していいとは言えない。


顔だって、並。

中の中。

背だって高くないし、大して可愛くもない。



上条さんと並んでも、お似合いだなんて言えない。

釣り合ってるだなんて思えない。


文香さんと並んだら、絶対に見劣りするだろう。



私なんかといるよりも、上条さんの為になる。

取引先の社長の娘である彼女と結婚した方が、確実に上条さんはステップアップ出来る。


私と一緒にいても、上条さんには何の得もない。



私は、上条さんに何もあげられない。

何もしてあげられない。


私じゃ、ダメなんだ。


私じゃ、上条さんの邪魔になるだけなんだ。



この場に留まる限界を超えてしまった。



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