秘密の2人

「優羽ちゃん、お母さんに無理やり呼ばれたんじゃない?」


蒼空の母親の運転する車に乗ってすぐ、蒼空は気になって優羽に聞いた。


「なんか言ったー⁉︎」


しかし、運転中の母親が応えた。

車内はなんとなく意外だが、テンポの速いレゲエっぽい音楽がBGMとして流れている。しかも音量が結構大きい。

運転席と後列はそんな距離は開いていないが、声がほとんど届かないくらいだ。


「なんでもない!」


蒼空は間違えて応えた母親に返事した。


「そう?」


あら、気のせい?という感じで母親は運転に集中した。


「ごめんね、優羽ちゃん。」

「いや、相変わらずだな。」

「?なにが?」


何のことかわからなくて、蒼空は首を傾けた。


「いや、なんでもない。」

「?」


蒼空と母親の会話は、親子だが友達のように楽しげで、聞いている優羽も楽しくなる。

優羽にとって、なんとも心地のよい会話なのだ。

蒼空にその事を言うと反論しそうだから言わないが…。


「…別に無理やりじゃないよ。」

「そう?ならよかった。」


蒼空はニコッと笑った。
久しぶりに見た蒼空の笑顔は、優羽の胸を刺激する。

頬が赤くなりそうだったので、優羽はさりげなく窓から外を見るフリをした。

そして思った。

声をかけられなくても迎えに来ていた。

むしろ声をかけてもらえたから、堂々と蒼空を迎えに行く事ができたのだ。
母親には感謝である。



「…とうとう卒業だね。」


蒼空が声をかけてきた。


「そうだな。」


優羽はまだ頬の赤みが気になって、外をみたまま返事をした。


「優羽ちゃん、今日、卒業生代表のあいさつするの?」

「ああ、するよ。」

「ふーん・・・」


蒼空は背もたれに背中を付けて、ため息のような返事をした。

その反応がふと気になり、優羽は蒼空を見た。


「・・・どうした?」

「え?」


蒼空はきょとんとした。


「今、何か不満げな返事しただろ?」


そう言われて、今度は蒼空が頬を染めた。優羽とは違いもろばれだ。


「や・・だって・・・。代表であいさつすると、その後いろいろと忙しいでしょ?」


生徒代表として元生徒会長は卒業式であいさつをするが、その後、PTAや教育委員会などのお偉いさん方にも、三年間お世話になった感謝のあいさつ回りをしないといけないのだ。
毎年恒例のことで、今年も例外なく卒業式後の予定に入っている。


「・・・そうだな。」


優羽は、蒼空の思ったことを理解した。


「式場に入ったら、クラスも違うし離れちゃうし。」

「そうだな。」


蒼空は今度は静かにため息をついたが、優羽にはそれがわかった。


「帰りはバラバラだねー。」

「終わったらすぐに帰るのか?」

「たぶんね。」


医師から無理やりもらった卒業式の参加許可。そう長くは学校にはいられない。


「あ~あ、優羽ちゃんと制服を着て並ぶのはこれが最後だね。」

「そりゃそうだろ。明日から制服着たらコスプレになるぞ。」


そう言われて、蒼空はその姿を想像した。


「たしかに!」


蒼空はプッと噴き出し、ケラケラと笑った。

その姿をみて優羽は微笑み、そっと蒼空の手握った。

蒼空は一瞬驚いた表情になり頬を赤く染めたが、無言のまま優羽のぬくもりを感じる手を握り返した。

二人は学園まで手を離すことはなかった。
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