密と蜜~命と共に滴り堕ちる大人の恋~
 大体、用もないのに走る意味がわからない。

 バス停にバスが止まっているのが見える。そういう時でしょ、走るのって。

「運転手さーん、待ってー!!」とか、叫んだりしながら。

 私はそれでも走らずに次のバスを待つ、緩やかな性格。

 それに都会のバスの運転手さんはきっちり時間通りに行こうとするから、走っても待ってくれない事が多い。

 それが当たり前なんだけど。私が生まれ育った田んぼに囲まれた町では、手をあげればそこがバス停でなくても乗せてくれた。蛙でも飛び跳ねれば乗せてくれそうな親切心溢れる町だった。


 そんな町で育った私が家電店で警報装置のような大音量の目覚まし時計を買い、朝五時に起きて、眠い目を擦りながら隼人と一緒に多摩川の土手を走った。

 違う。一緒に、ではない……。



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