花の名前
彼は、その手を握り返すと、意外なことを言った。


「君が飲んだのは、ただのビタミン剤だよ。」


あたしは、自分の耳を疑った。


何を言ったのか、最初は理解できなかった。


「エリカちゃん、あれ、いい絵でしょう。朋夜が死ぬ前に描いたんだよ。」


だけど、彼は、ろれつの回らなくなってきた口で、一語一語を、確かめるように言った。


「エリカちゃん、君には生きてて欲しいんだ」


あたしを抱きしめていた身体から、力が抜けるのがわかった。


それと同時に、かすかな寝息が聞こえた。
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