彼岸桜
そうだ。
もう、いいかな。と思った。

今ならもうこの帯揚げを締めてもいいのではないか、と。彼と過ごした日々はもうすでに遠く、自分が夫と過ごした日々はもう何にも代え難く確固としたものだ。この帯揚げを貰った頃の揺らいだ自分も、もう、思い出の中にしかいないのだから。

桜の咲く頃には桜色の帯揚げを締めて、肌寒い日にはかのショールを羽織った。彼のお母さんではないかと思うその絵付師に描いてもらった草花の帯の季節を選ぶものはその時期に、選ばないものは思い出した時に締めて、鏡に映した自分を見ると不意に彼のことを思い出したりしながら。
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