ボレロ - 第二楽章 -

19. con calore コン・カローレ (熱情をこめて)



私は占いや運勢などにあまり興味はないが、雑誌に占いの欄があれば一応目

を通す。

今月の 『ふたご座』 の運勢をさっと読み、眉を寄せながら雑誌を閉じた。 


「突然の出来事に予定を阻まれます。けれど諦めてはいけません。 

希望を捨てず、努力することで運が開けるでしょう」


こんなこと、占いでもなんでもない。

ごくあたりまえの 「助言」 ではないか。

だからどうしたのよと思ったものの、運勢より先に読んだ 『ふたご座の性格

と本質』 には、なるほどと思う部分もあった。

今までさして気にしたことはないが 『ふたご座』 の本質であるといわれる 

「二面性」 は、私に確かに備わっていると思う。

母の話を聞きながら 「縁談はお断りしてください」 と宣言したいけれど、

この件については真っ向から否定するのは逆効果だと、冷静なもう一人の自分

が判断している。

こんなところが 『ふたご座』 たるところだと思う。



「今年は良い年になりそうよ」


「お母さま、もうすぐ6月よ。半年過ぎるのよ」


「あなたの誕生日から一年ということです。

お話を頂いたの、それも三人の方からよ。 

すごいでしょう。幸先が良いわ」


「そう……良かったわね」


「まぁ、人ごとみたいに言うのね。

あなたのことですよ、もっと喜んでもらわなくちゃ」



珍しく父も一緒の夕食の席で、母の機嫌はすこぶる良かった。

父も知らされていなかったらしく、いつもなら私の縁談話には口を挟まない人

が 「どなたの紹介か」 と母に聞いている。

お話を通してくださった方は違うものの、「須藤社長のお嬢さまとぜひお会い

したい」 と、同じような言葉が添えられて二人の方から申し出があったそ

うだ。

去年の誘拐事件で見せた父の真摯な姿がいたく気に入り、その娘なら申し分な

いだろうということらしい。



「お父さまの、事件後の会社への取り組みが素晴らしいとおっしゃって

くださって。私も本当に嬉しくて」



去年の誘拐事件のあと、縁談にも差支えがあるかと思っていたが、お父さまの

姿勢が評価されたことで縁談が持ち込まれた、事件の後遺症がなくて良かっ

たと、母親らしい見解だった。

要するに、私が評価されたわけではなく、父、須藤孝一郎が評価されたのだ。

私と結婚したいのではな、 須藤という家と 『SUDO』 の社長の娘に魅力

を感じた二人から、申し込みがあっただけのこと。 

私にとってそんな相手が嬉しいはずもなく、母の上機嫌に反するように私の気

分は急下降していく。


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