ボレロ - 第二楽章 -


珠貴が言ったことは本当だった。

翌日の午後、私の元へ大小の二つの荷物が届いた。

差出人 「浜尾真琴」 と伝票に書かれた大きな箱の中身は、確認するまでも

なかった。

昨夜の珠貴の電話が形となって現れたのだが、こうして目の前にあるのに信じ

がたい光景を見ているようだ。

腕組みをして箱に向かい合う私の姿を、部屋に入ってきた平岡が不思議そうに

見た。



「これ、なんですか?」


「ホワイトデーに配る品だ」


「えっ、誰が持ってきたんですか。浜尾さんじゃないですよね」


「魔法使いが運んでくれた」


「はぁ?」



我ながら気の利いた返事をしたものだと密かにほくそえんだが、彼には通用し

なかったようだ。

平岡は、まだ怪訝そうな顔をしていた。

背広のポケットで携帯が着信を告げた。




『浜尾です。お品は届きましたでしょうか。

私の一存で用意させていただきました』


『いま受け取った。ありがとう』


『14日、副社長から彼女たちへお渡しください。

彼女たちも、その方が喜ぶかと思いますので。

ご家族のみなさまへのお品はいかがいたしましょう。

お申し付けいただければ、私の方で手配いたしますが』


『いや、大丈夫だ。ありがとう。君のほうも大変だろうが、新人の教育を頼む』



失礼いたします、と感情を挟まない秘書らしい声がして電話は切れた。



「なんだ、やっぱり浜尾さんに頼んだんですね」


「いや、彼女には何も言ってない」


「言わないのに届いたんですか? 

ってことは、浜尾さん、忘れてなかったのか。 

何ごとにも抜かりがない。さすがですね」


「あぁ、そうだな」



関心しきりといった顔で、平岡は何度もうなずいていた。

さすがといえば、この人もたいした女性だと彼に教えてやりたかった。

先ほど届いた荷物の小さな方は珠貴からのもので、添えられたカードには、

見慣れた字でメッセージが書かれていた。


『大事な方へお渡しください 珠貴』


箱にはそれぞれ付箋が貼られ、誰に贈るのかが記されていた。 

お袋と紫子それに静夏。

それから……私がすっかり忘れていた、浜尾君とひろさんへの分も用意されて

いた。

珠貴のおかげで、私はホワイトデーの面目を保ったのだった。



あれから二ヶ月近く過ぎ、季節は風が爽やかな頃を迎えていた。

5月生まれの君に、今年はどんなプレゼントを贈ろうか。

最近の私は仕事だけでなく、こんなことを考える余裕が持てるようになって

いた。
 


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