ボレロ - 第二楽章 -


たまっていた感情を吐き出したものの、釈然としない思いを抱えて座り込む

私の肩に珠貴の手がまわされ、柔らかい力で引き寄せられた。



「そんなに心配してくれてたの」


「そうだよ」


「大事そうに体を支えてくれたのは、私の体を守ろうとしたからなのね」


「あぁ、気がついてたんだ」


「えぇ、どうしてお腹をかばうように抱えてくれたのか不思議に思ってた…… 

体の変化ってね、すぐにわかるものなの。

ほとんどの女性はつわりの前に気がつくはずよ。

もしもそうなったら……私は黙っていないと思う。宗に伝えるわ。

だって自分だけの問題じゃないでしょう」


「うん……」


「もし……妊娠していたら、どうするつもりだった?」


「どうするって、そんなこと決まってるだろう!」



私の声の大きさに珠貴の体がビクッと震えた。

妊娠とはっきりと言葉にされたことに戸惑い、どうするつもりだったのかとの

言葉に、彼女から私の覚悟を試されたようで、つい大声になった。

怒鳴るように声を出したのは私なのに 「ごめんなさい」 と謝ったのは珠貴

だった。

思わず感情をあらわにしてしまったことが、いまさらながら恥ずかしく、

俺も悪かったと、うつむく珠貴の顔に詫びた。



「まずは君のご両親にお会いして……

とにかく、将来設計を急がなくてはと思った。

それからいろんなことを考えた。

やらなくてはならないことが山ほどありそうだった。

大変だと思いながら、来年の春はどうなっているのか、

夏には家族が増えるのだろうかと考えるのも楽しかった」



照れくさいことを言ってしまったと思ったのと同時に、珠貴の腕が首に抱き

ついてきた。

どうしたんだ? と聞く前に、彼女の口がひらいた。



「ありがとう。私にはその言葉だけで充分だわ」


「そんなに君を嬉しがらせることを言ったかな」


「えぇ、宗は未来を思い描いてくれた。それを楽しいと言ってくれたわ。 

子どものために、仕方なく結婚するんだと言われたら、

私、そんなのイヤだもの……」 

 

抱きついた腕を緩め、鼻先に顔を寄せてきた。 

嫌だという顔は嫌そうではなく、むしろ満面の笑みに近い。

力を込めて珠貴の体を抱いた。

鼻先が触れ、頬をこすり合わせ、耳朶にふれてから額に唇をおく。

鼻筋をつたい口元へたどり着く前に、また額へと戻った。

同じ動きを繰り返すうちに、珠貴の口から艶のある息がもれてきた。

ねぇ……と、唇へのキスをせがむ声が、さらに私の感情を煽る。

顎を突き出し私を求める顔が、甘い気分を駆り立てた。 


言ってしまおうか……今なら言葉にできる。

珠貴の熱い息を頬に感じながら、彼女の耳元へと口を寄せた。



「これまでもそうだった。これからも変わらない。いまも、心から……」  



最後にささやいた言葉を聞いた顔が、薄紅色に変わっていく。

私も……と言いかけた唇をふさぎ、壊れるほどに抱きしめた。




        
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