ストロベリーショートケーキ
「……花井くん、さっきの店長さんとあたしの会話、聞いてたでしょう」



またおいで!と店長さん夫妻に見送られての帰り道。

この後閉店までお店を手伝うらしいのに、バス停まで送る、と一緒に出てきてくれた花井くんは、あたしの言葉に1度は向けかけた目を再び逸らした。

彼のその反応は、暗にYesと言っているようなものだ。



「……なんで」

「隠れてたつもりかもしれないけど、コック服のすそ、チラチラ見えてたよ」

「………」



まあ今現在は、そのコック服から制服に着替えているわけだけど。

だんまりを決めこむ花井くんに、あたしはくすくすと笑う。



「まあねぇ、店長さんは、気づいてないと思うけど」

「……佐倉、あの話は、忘れていいから」



あくまであたしとは目を合わさずに、彼はそんなことを言った。

あたしは逆にまじまじと、となりを歩く花井くんの横顔を見上げる。

彼の頬に赤みが差しているのは、きっと、夕日のせいだけではないんだろう。

思わず、笑みが浮かんだ。



「ふふ、どうしよっかな。……でも今日で、“匂い”の正体がわかったよ」

「匂い?」

「うん。花井くんから、あまい匂いがするなぁって思ってたから。それって、香水とかじゃなくてお菓子の匂いだったんだね」

「……そう?」



呟きながら、くんくんと自分の制服のそでの匂いをかぐ花井くん。

そんな彼の様子に、あたしはまた笑ってしまう。
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