後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
「命がけで守ってあげたのに」
「恩着せがましい割に、わたし重傷負ってるんですけど」
「それは……」

 フェランがう、とうなったところで、アイラは家を出た。彼が後を追ってくるのを待って、しっかりと戸締まりをする。

 それから大家の家によって、もう一度挨拶をしてから後宮に戻る道を歩き始める。

「アイラは何でそんなに俺のことを嫌うわけ?」

 急ぎ足に歩くアイラの後を悠々と歩きながらフェランはたずねる。アイラはくるりと向き直った。

「――ろくなことがないからですよ、フェラン様」

 これがライナスなら――万が一にもないだろうが――アイラは素直に誘いに乗っただろう、たぶん。

 彼の好意がどこに向いているか知っているし、実直な人柄にも好感を持っている。ぶっきらぼうなのは知っているが、信頼できる相手だとも思っている。

 それがフェランとなると――アイラは首を横に振る。皇宮騎士団に属する者はそれが皇女近衛騎士団でも、都の女性たちの憧れの的だ。

 フェランがしばしば違う女性と出歩いているのは、皇宮内の噂に詳しいファナがあちこちから仕入れてくるから知っている。
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