後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
 演技かとたずねたアイラに父は言う。

「なんでわかるのよ」

 今度はエリーシャが口を挟んだ。

「杖なしにすたすた歩いている現場を目撃したんでね。わたし自身が、この目で」

 ひゅーう、とエリーシャは高く口笛を鳴らした。

「あなた密偵としても使い勝手がいいわね! パリィと交代させようかしら」
「あいにくですが、エリーシャ様。わたしは皇帝陛下の直属なので、交渉は陛下とお願いいたします」
「とりあえず、セシリーとやらに注意が必要ね。セシリー教団にも、レヴァレンド家にも」

 エリーシャは考え込んだ。

「現在わかっているのはこれだけです。まあ、またそのうちお邪魔しますよ。それでは、失礼します。あ、わたしにご用の際の連絡方法はこれで」

 エリーシャの手に何か落とし、ひょい、と肩をすくめたジェンセンは、そのまま姿を消す。

「父さん……転移の魔術は不得意なんですよねぇ。今度は変な場所に落ちなければいいけど」

 アイラは嘆息し、眠れないと言うエリーシャのために酒蔵に走ったのだった。
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