後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
「あんたの命より、皇女様の方が大切に決まっているでしょうが」

 ――言われてみれば、確かにそうだ。平凡な町娘より、皇女の方が大事に決まっているに。

「影武者って何をすればいいんです?」

 ため息を一つついて、アイラは言った。おいしく焼けているはずのクッキーが、急に砂のように感じられる。

「――公式の場に出る時のエリーシャ様の代役すべて」
「む――無理ですよ!」

 アイラはわめいた。

「エリーシャ様の代役なんて、わたしにつとまるはずないじゃないですか!」

 とっさの時に、エリーシャの身代わりになって逃げるのとはまるで違う。

 公式の場に立つとなれば、エリーシャとアイラの違いに気づかれる可能性ははるかに高くなるだろう。

 そのための教育を受けてきたエリーシャでは立ち居振る舞いがまるで違う。

「わ――わたしは、ただの町娘ですよ! 平凡な!」
「誰が平凡なんだか」
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