後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
「聞いてるんでしょ? 出てきなさいよね」
「皇女様のご命令とあらば」
「――ベッドの上に転がり落ちるのはやめなさい!」

 姿を現したジェンセンが着地したのは、前回同様エリーシャのベッドの上だった。アイラのベッドよりはるかに柔らかいから、そちらを狙っているのではないかと疑いたくなる。

「いいこと? これでレヴァレンド侯爵家に乗り込む口実ができたでしょ。あなたに後を追わせるにはどうしたらいいの? この石を持って行けば大丈夫?」
「そうですなぁ、それだけでは不十分ですが。ベリンダをお連れになるのでしょう? 彼女に話をしておきますよ――ここから先は魔術師の領域になるので」

 すたすたと皇女の部屋から侍女の間へ出て行こうとする父親を、アイラは一瞬黙って見送りかけ――

「こら! 本来後宮に出入りしちゃいけない人間が、堂々とうろつくな!」
 ジェンセンの後頭部には、アイラとエリーシャ二人分のスリッパが命中したのだった。
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