後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
 ダーシーは何かを思い出そうとするかのように天井を見上げた。睡蓮邸の天井は、白い壁紙が張られている。

 皇族の住まいである宮の天井は、金を施した華やかな絵画で飾られているが、この場所はそこまではされていなかった。

「残りも全員操られているというわけ。あなたと違って、あの人たちは影響から抜け出すのに少し時間がかかりそう」

 エリーシャはため息をついた。

「あなたには魔術の心得があるのかしら?」

「心得というほどのものではありませんが、素養は持ち合わせているようですよ。ジェンセンが言っていました。子どもの頃から学んでいたなら、それなりの水準に達しただろう、と。三十過ぎてからでは遅いそうです」

「残念だと思う?」
「いえ。どちらにしても侯爵家を継がなければいけない身ですしね」

 ダーシーは笑うと、自分も茶器を手にした。
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