後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
「あなたがその手の言葉を必要とする女性とは思っていませんよ。わたしからは差し上げないことにいたしましょう」
「だったら最初から要求しないでよ。何ならもう一度蹴り飛ばして――」
「それならむしろ望むところ――」

 言いかけたダーシーの後頭部を、衝撃が襲う。とっさにアイラが投げつけたのは、銀のティーポットだった。不幸中の幸いは、完全に中身が空だったことで、茶の残りが入っていれば、ダーシーは火傷を負っていただろう。

「よくやったわ、アイラ!」
「すみません、ダーシー様。手が滑りました」

 謝ったものの、アイラは殴ってから激しく後悔していた。ついうっかり、「くそ親父」に対するのと同じ態度をとってしまった。ダーシーがその気になれば、アイラなどひとたまりもないというのに。

「いてて、君、なかなかいい腕してるね。護衛侍女として合格点をあげよう。ただ、次回からはわたしがエリーシャ様の婚約者だということを忘れないでもらえるとありがたいな」
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