後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
何かついてきてますけどっ
 アイラは久しぶりに侍女のお仕着せでも、エリーシャとお揃いの男装でもなく、普通の町娘の格好をして後宮の裏門と化している秘密の出口から忍び出た。

 そのまま、イヴェリンと待ち合わせている宿屋へと向かう。

「……遅かったわね。ご主人がなかなか出してくれなかったのかしら?」

 指示された部屋で待っていたのは、ごく落ち着いた商家の奥方といた雰囲気の女性だった。柔らかな茶色の髪を右耳の下で一つに束ね、藤色のワンピースに身を包んでいる。

「――どなたですか?」

 予想していた人物と違う人に出迎えられてアイラは面食らった。目の前の女性は深々とため息をつく。

「お前は馬鹿か。鬘被ったぐらいでわからなくなるとか、どうかしているだろう」
「眼鏡もないです」
「あれは伊達眼鏡だからな。ウォリンの好みは眼鏡をかけた知的な外見の女だ」
「はあ、そうですか」

 わずかにイヴェリンの頬が赤くなる。なんだか意外な一面を見せられて、アイラは驚いたが、後宮にあがってから身につけた侍女の嗜みとしてそこは見なかったことにしておいた。
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