後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
「……女将さん、お食事だけでもかまわないかしら? わたしも妹もあまりお酒はいただけないの」

 首を傾げて、にこりとイヴェリンはたずねる。このイヴェリンの表情にはいつまでたっても慣れないなぁとアイラはそのイヴェリンの後ろでにこにこするにとどめておいた。

 食事だけの客も、当然歓迎される。イヴェリンとアイラは人目に付かないように、それでも周囲の声はよく聞こえるような席を選んで座った。

「貴族の若様たちがこんなお宿で大丈夫なのですか?」

 女将が後からやってきたフェランとライナスを歓迎する声を聞く。

「いいんだ、お忍びだからな」

 フェランが女将に言っている声も聞こえてきた。どこから見ても貴族の若様な風体のままで、何がお忍びなのだろうかとおかしくなったのだが、アイラは表情に出さないように内心にとどめておいた。
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