後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
 どうやら、部屋には魔術的な何か、が仕掛けられているようだ。天才魔術師の血を引いているにも関わらず、アイラはあまりにも才能がないためにその影響をあまり受けないという特異体質だ。
 
 ライナスの方はしっかり影響を受けて、扉から動けなくなっている。

「……すまん」

 アイラは詫びるライナスを放っておいて、薄暗い部屋の中に目をこらした。

 二つ、呼吸をしてからアイラは足を踏み出した。部屋の奥の方には魔術によって作られた光源があるようだ。地下の部屋とはいえ、真っ暗というわけではない。

「……飯の時間か?」

 急にかけられた声に、アイラは悲鳴を上げかけ、とっさに服の袖をかんでそれをこらえた。

「……どっかで見た顔――」
「言われてみれば……どちら様?」

 光源から少し離れた薄暗い場所に、男が一人拘束されている。どこかで見たような顔なのだが、どこで会ったのかが思い出せない。

「ああ、そうだ。あんた侍女さんだろ――酒場で会ったな」

 ぽん、とアイラは手を叩いた。
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