後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
「パリィさん!」

 後ろ手に縛られて転がされているのは、エリーシャの密偵であるパリィだった。教団に潜入しているはずがこんなところで再会することになるとは。

 薄ぼんやりとした明かりで確認できただけでも相当痛めつけられた跡があって、変装しているんだかいないんだかさえわからなかった。

「あらやだ、これ、鎖じゃないですか」

 とりあえず拘束を解いてやろうとかがみ込んだアイラは、彼の手を拘束しているのが縄ではなく鎖であることに気がついて困った顔になった。

 アイラではこの鎖を外すことはできない。ここはライナスに頼るべきだろう。

「ちょっと引きずりますねー。痛いですかー、痛いですよねー。まあ、我慢してください。パリィさん持ち上げられるほど力ないんで」

 アイラは、ずりずりとパリィを扉の方へと引きずっていく。床の敷物と顔がすれてパリィが小さく呻くのは聞こえなかったふりをした。扉のところまで行くと、気持ち悪そうにうずくまっていたライナスがあきれた声を出す。

「あんたよくこの状況で動けるな」
「魔術に異常に鈍いんですよ。わたしじゃ無理なんで、ライナス様、この鎖外してください」
「アイラの体質もこういう時には便利だな」

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