後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
「フェラン、一緒に行ってやれ――詳細は宿に戻ってからだ。とりあえずこのままでは目立つ。ばらばらになれ」

 イヴェリンがてきぱきと指示を出し、一行は集まってきた人混みの中に紛れ込む。

「こんな大騒ぎになって、大丈夫なのかなー」

 つぶやいたアイラは、急いで宿へと戻る。最初に宿に帰り着いたのはイヴェリンで、次がアイラ。怪我をしているパリィを連れていたフェランとライナスが最後に帰り着く。

 一人増えた宿泊者の分の宿代として、フェランは多すぎるくらいの料金を宿の女将に押しつけた。口止め料込み、というやつだ。

 屋敷内での報告をし終えるか得ないかという頃――空中からジェンセンが転がり落ちてきた。余裕もないらしく、床にしたたかに肘を打ち付けて顔をしかめている。

「父さん!」

 ジェンセンが脇腹を押さえ、そこに怪我を負っているのを見てアイラは悲鳴を上げた。命に別状はなさそうだが、かなりひどい。イヴェリンは冷静な表情でたずねる。

「セシリーか?」
「引き分けだ――が、ここからすぐにたたなきゃならん。アイラ、この図を床に書いてくれ」
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