後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
「アイラ、蜂蜜ちょうだい」
「かしこまりました」

 大量にバターを塗ったパンにエリーシャは胸焼けしそうなほどの蜂蜜をかけた。

「それで? わざわざ出向いてきたからには何かあるのでしょ?」

 たぶん昼食食べそびれたなどと言っても無意味な気がする。いっそ心地いいほどの健啖家ぶりを発揮してエリーシャは蜂蜜をつけたパンを食べ終えた。チーズとハムも手元の皿に移動させる。

「ここのところ、機嫌のよくなかったあなたが、剣の稽古の時にはずいぶん機嫌がいいようでしたのでね。何かあったのかと」

「わたしのことをよく見ているのね」
「一応、婚約者ですから」

 なんだかこの人も腹の底が見えないなぁと壁際に控えたアイラは失礼なことを考えた。皇宮内の人間は、どいつもこいつも常に腹を探り合っているような気もする。

 それは、セシリーのことを探っている父やウォリーナの槍と引き替えに協力を受け入れたユージェニーもそうなのかもしれないけれど。

「まあ素敵。愛されてるっていいわ」

 完全な棒読みである。
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