後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
 というかそれ以前に、胡座をかいているのはどうなのだろうか。侍女たちは膝をそろえて座っているというのに、エリーシャは思いきり胡座をかいてグラスを手にしている。

「そんなに堅苦しくしないで大丈夫、ここの部屋にいる間はね」

 エリーシャのペースは速い。グラスを一口開け、そして、素早くイリアがお代わりを注ぐ。

「……さーて、それじゃ着替えますかねっ」

 結局四本運ばれたワインも、運ばれた料理の大半もエリーシャの胃におさめられた。

 立ち上がったエリーシャは、首をぼきぼきと鳴らして三人に着替えを命じる。

 夕食用のドレスは、白に銀の薄い布をかぶせたものだった。スカートは三枚の布を重ねたもので、裾がふわふわと揺れる。

 イリアが素早くエリーシャの髪を結い上げた。簡単だが、派手に見える形だ。むき出しの肩に、白いショールをかけてエリーシャは部屋を出る。

 部屋を出たとたんエリーシャの態度が変わった。目を伏せてしずしずと歩く姿は、ついいましがたまで部屋で酒盛りをしていた人間のとは思えない。

 タラゴナ帝国の皇宮は、主に皇帝の執務室、国内外の要人と謁見するための部屋、舞踏会が開かれるための大広間や、宿泊客を泊めるための施設のある前宮、それに皇帝の家族――愛人も含まれる――の暮らす後宮から成立している。
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