後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
 そして、護衛侍女をつけろとうるさい相手も何となくわかってしまった。
 
 主にゴンゾルフだろう。皇女宮内に出入りできる騎士は彼と彼の妻だけ。
 
 二人とも近衛騎士団ではトップにいるのだし、皇女につきっきりというわけにもいくまい。
 
 アイラに後宮の現状を説明したエリーシャは、再び話を戻す。

「ジェンセン・ヨークが身を持ち崩した原因は知らない。でも――魔術を手放せないのもまた、彼らしいとは思うわ――王宮を離れても何か研究してたって聞くもの。だからこそ、セルヴィスはあなたを欲しいと思ったのでしょ」

「わたし? わたしなんて――ただの平凡な一般人ですよ。父の才能受け継いでりゃ、また話は違うのかもしれませんが、カフェで皿運びするのがせいぜいで」

 アイラに父譲りの魔術の才能があると――そう思ってのことなら、セルヴィス皇子の誘いにも納得がいく。優れた魔術師を抱えておくのは、皇族にとって悪いことではない。

「馬鹿ね。あなた自身が平凡か非凡か――そんなこと関係ないわよ」

 エリーシャはチーズを口に放り込む。

「いざって時に、あなたをジェンセンに対する人質とか取引材料として使う――セルヴィスが考えているのは、せいぜいそんなところでしょうよ」
「人質、ですか」
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