後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
 アイラの顔が曇った。アイラを人質に取ったとして、父はアイラのためにセルヴィスの出した条件を呑んでくれるのだろうか。

「わたしが、その役を果たせるかどうかはわかりませんけどね」

 父に愛されている自覚なんてなかったから、口調がつい、惨めったらしいものになってしまう。それを聞いたエリーシャは大笑いした。

「だから、セルヴィスは馬鹿だっていうのよ!」
「馬鹿……」
「そう、馬鹿。馬鹿、も馬鹿、も馬鹿、よ」

 馬鹿をやたらに連発しておいて、エリーシャは息をついた。

「人質なんて、一番卑怯な手段なのにね――それを使わなきゃならない時があるってことは認めるけれど、少なくともあなたの場合はそれは当てはまらない。それがわからないどアホウに皇位は渡せないわね!」

「人質としての価値すらないってことでしょうか」

「うーん、それはちょっと違うかな」

 エリーシャは首を傾げた。それから、アイラに向かってぴしりと指を突きつける。

「あいつが馬鹿だって言うのはね、あなたに人質以上の価値があるって認めないとこよ!」
「人質以上の価値……?」
「そうよ!」

 エリーシャは自信満々で言う。

「だって、夜遊びにつき合ってくれる侍女なんて便利でしょ!」

 一番の利用価値はそこか! アイラの肩が落ちた。
 
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