後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
 こういうことに関してはアイラの勘はよく働くのだ。あいにくと、彼女自身について働いたことはないのだが。

 かわいそうにねぇ、身分違いの恋だし叶うはずもないじゃない――と勝手に心の中でライナスに同情している間に、二人は後宮を出て前宮に入っていた。

 ライナスは、その中の一画にアイラを連れて行く。

「ここ、何なんです?」

 アイラは周囲を見回した。今までの壁は白い石でできていたが、ここの壁は違う。

「魔術研究所として使われている一画だ。壁は魔晶石で作られている」

 魔章石とは魔術師の力によって生み出される鉱石だ。あらゆる魔術をはねのける力、あるいは魔術によって生み出された力を吸い込むとされている。

「魔晶石なんて貴重品じゃないですか!」

 思わずアイラは声を上げた。

「当たり前だ。中で魔術が暴走した時、皇宮全体を守らなければならないんだからな。研究所の区域全ての壁が魔晶石で作られている」
「うわーお」

 魔晶石を作るのにどれほどの労力がかかるのか――正確なところはアイラにはわからないが、全ての魔晶石が煉瓦程度のサイズに統一されている。
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