後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
 食えない人だ。護衛侍女だの影武者だの夜遊びの相手だの――それでも、なぜか嫌な気分にはならなかった。

 翌朝、目覚めたアイラは慣れない二刀流の稽古が終わった後ライナスについていくように命じられた。せっかくの美形騎士との二人連れだが、あいにく今日も不細工メイクだ。

「おまえ、ほどほどにしておけよ」

 ちゃらちゃらした印象のフェランとは違って、こちらは寡黙な印象だ。余計なことは口にしないというか。

 その彼が口を開いたものだから、思わずアイラの背筋も伸びる。

「ほどほどにって何がですか?」
「皇女殿下だ。後宮の外にお出しするな。お前がおいさめしろ」
「そんなの無理ですよー。力尽くでとめようにも、あの方にかなうわけないですし」

 むっとした顔になったライナスは、アイラが追いつけないのもかまわずにぐんぐん足を速める。
 
 その後を追っていたアイラは気がついてしまった。

 あれはエリーシャ様に好意があるな。

 ライナスがエリーシャに厳しいのは、彼女の身を案じているから。
 そこに単なる忠誠心以上のものをアイラは感じ取っていた。
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