さよならの魔法



きっと小指の先ほども、私のことなんかを思いやってなんてくれない。


磯崎さんがそんなに優しい人だったなら、私は今頃、彼女と友達になっているはず。

こんな風に、彼女を忌まわしく思うこともなかったはずだ。



磯崎さんが考えていること、それは1つだけ。


どうやったら、私をからかうことが出来るのか。

どうやったら、私を困らせることが出来るのか。


ただ、それだけだ。



底知れない恐怖に、心が蝕まれていく。


得体の知れないもの。

どす黒く、醜いもの。


暗い感情に飲み込まれて、囚われる。



何か、言わなくちゃ。


何をされるかなんて分からないけど、何かを言わなければ。

怖くても、何か言葉を発しなければ。


勇気を振り絞って、弱々しく言葉を紡いでいく。

出てきたのは、自分でも驚くほど、か細い声だった。



「だ、大丈夫………だから………。」


お願い。

私のことは放っておいて。


私に構わないでよ。

お願いだから。



私のそんな小さな望みは、呆気なく散る。


磯崎さんが、ターゲットである私を逃すはずなんてない。

狙った獲物を、わざと逃したりはしない。



面白おかしく、時間を潰せる相手。

つまらない学校での時間を、楽しいものに変えてくれる人間。


磯崎さんにとって、面白おかしく時間を潰せることがいじめで。

そのターゲットは、私。


歪んだ思考の世界で、私は見事に選ばれた。

選ばれてしまったのだ。



勇気を振り絞って言った言葉も、磯崎さんによって掻き消されていく。

取り囲む人達の声で、消えていく。


私の声は届かない。


誰の耳にも。

誰の心にも、届くことはない。



「ねえねえ、聞いたー?せっかく心配してあげてるのに、こんな風に言い返すなんて。」

「さいてーい!親切にしてるのに、冷たくされてるんだけど。」



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