さよならの魔法
『価値観』
side・ユウキ







長い様で短い、夏休みが終わった。


今年の夏は、例年よりも暑かったらしい。

確かテレビで、そんなことを言っていた気がする。


いつもよりも暑くて、いつもよりも忙しかった夏。



学校と家との往復。

週末には、彼女とのデート。


中学生にしてはませていて、充実感のある夏休みだったと思う。

我ながら。


体が1つじゃ足りないってくらい、フル稼働してた。



幸せだと思ってた。

楽しいと思ってた。


思えば、茜とは、夏休みの間が1番上手くいっていたと思う。




幸せなんて、脆いもの。

崩れやすくて、壊れやすくて。


きっと、シャボン玉みたいに儚いもの。



幸せは、ほんの些細なことから崩れ落ちていく。


そもそも、俺は本当に幸せだったのだろうか。

俺の思う幸せって、何だったのだろうか。


考えれば考えるほど、分からなくなる。



幸せとは何なのか。

自分とは何なのか。


時間が経ってからでは、更に分からなくなるんだ。



俺を立ち止まらせるきっかけを与えてくれたのは、あの子。


秋空の様に、穏やかな子。

凪いだ海の様に、緩やかな心の持ち主。


きっかけをくれたのは、天宮。

よくよく考えれば、俺に何かを考えるきっかけを与えてくれていたのは、いつも天宮だったのかもしれない。









キーンコーン、カーンコーン。


授業の終わりを告げるチャイムが、校内に響く。

古い校舎の隅々にまで届く音。


今ではすっかり聞き慣れたその音を聞き流しながら、俺は机の上に広がった教科書やノートをサッと纏める。



滲む汗。

誰かが使ったらしい制汗剤の匂いが、鼻孔に届く。


まだまだ暑さが残る、9月の始め。



「あー、暑い………。」


暑い。

ほんとに暑い。

暦の上ではもう秋であるはずなのに、実際はまだ秋の気配すら感じられない。



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