さよならの魔法



磯崎さんは、うちのクラスの女子の1番上にいる人間だから。

ピラミッドの頂点にいる人だから。


自分も同じ目に遭うと分かっていたはずなのに、それでも橋野さんは引かなかった。

逃げようとさえ、しなかった。



「天宮さん、次、移動だよ?一緒に行こう。」

そう言って、私に手を差し伸べてくれたんだ。









「………橋野さん、………。」


そう名前を呼べば、微笑んでくれる。

あの夏の日と同じ笑顔で、笑いかけてくれる。


嬉しくて。

嬉しくて。


冷たくなる一方だった心に、温かい感情が一気に流れ込むのが分かる。



白い手。

私の手よりもほんの少し大きな手が、差し出される。


その手が、私には救いの手に見えた。

神々しいほどの光を纏っている様にさえ、思えた。



「ありがとう………。」


差し伸べられた手に、自分の手を重ねる。


誰かと手を繋ぐなんて、何年ぶりだろう。

もう忘れてしまいそうなほど、昔のこと。


そう。

最後に誰かと手を繋いだのは、両親。

小学生の低学年だった頃、両親と手を繋いで以来だ。



手を繋ぐ。

その行為には、深い意味があるのかもしれない。


手と手。

体の一部分を繋げるというよりも、心と心を繋げる行為なのだ。



だから、こんなにも温かい。


繋がれた手も。

橋野さんによって、救われた心も。









この日を境に、私の置かれた立場は微妙な変化を遂げる。


それは、いいことだったのか。

それとも、悪いことだったのか。



同じ教室にいた、たくさんの人。

大好きな紺野くんにまで影響を与えていたなんて、この時の私は知る由もない。



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