さよならの魔法



天宮は、磯崎の嘘に気が付いているのだろうか。


磯崎が、天宮を心配なんかしていないこと。

天宮を思いやって、そう言っている訳ではないこと。


天宮の言葉なんか、磯崎は聞いてない。

天宮の小さな声を掻き消す様に、わざとらしいほどの大きな声で、磯崎はこう言い返した。



「ねえねえ、聞いたー?せっかく心配してあげてるのに、こんな風に言い返すなんて。」


磯崎の言葉に呼応して、周りの連中が悪乗りをし始める。



「さいてーい!親切にしてるのに、冷たくされてるんだけど。」

「天宮さんって、そういうこと言う人だったんだー!」

「意外ー、もっと優しい人だと思ってたのに。」

「心配してくれた人に、その言葉はないよね!」

「うん、うん!ないよー!!」


最低。

それは、どっちだよ。


天宮は、十分過ぎるほどに優しいじゃないか。



誰にも何も言わず、ただ耐えてる。

先生に告げ口してしまえばいいのに、それさえせずに我慢している。


たった1人で。



教室中に聞こえる様に、被害者面して喚く磯崎達。


勝手に被害者面してるけど、被害者はコイツらじゃない。

被害者は、天宮。


それは、誰の目から見ても、明らかだった。





「ユウキ………?」


ぼんやりとする俺を見上げる茜が、不安げな眼差しで俺を呼ぶ。


茜が、そんな声で俺を呼ぶのは珍しい。

甘えた様な可愛らしい声ではなく、どこか悲しい声音。



ユラユラと揺れる瞳。


そんな顔をさせてしまうくらい、俺は不安にさせてしまっていたのか。

考え込んで、難しい顔をしてしまっていたのか。



「悪い………、茜。」


茜のことを不安にさせたかったんじゃないんだ。

茜を泣かせたい訳じゃないんだ。


悪いことは何もしていないはずなのに、つい謝罪の言葉を口にしてしまう。



< 117 / 499 >

この作品をシェア

pagetop