さよならの魔法
茜ではない女の子のことに、気を取られていたせいか。
それとも、茜の相手を適当にしていたせいか。
ほんの少し生まれた罪悪感が、俺に謝罪の言葉を引き出させたのかもしれない。
生まれた罪悪感がどんどん大きくなって、俺を支配していく。
消したくても消えないその思いが、苦い表情をも生み出す。
俺の顔を見て、茜の笑顔も消えてしまう。
明るい茜の笑顔が、俺の前からその姿を消す。
教室にいる人間は、みんな知らないフリ。
聞こえているはずなのに。
見えているはずなのに。
誰も聞こえないフリ。
誰も見えていないフリをしてる。
誰も、何もしない。
動こうともしない。
傍観者なんだ。
関わり合いたくないから、望んで傍観者になっている。
俺だって、同じ。
傍観者の1人だ。
誰も崩せない均衡を破ったのは、意外な人物だった。
「あ、あの………!」
怯えた声が、耳の奥の鼓膜を震動させる。
磯崎ではない人物の声。
気が付けば、天宮を取り囲む群れの外に、1人の女の子が立っている。
(あれは、橋野………?)
そう。
確か、橋野。
橋野 祥子だ。
橋野を知っているのは、去年も俺と同じクラスだったから。
天宮と同様に、今年も同じクラスになった子。
仲が良かった訳じゃないから、話をした記憶もないけれど。
部活は、美術部に入っていた気がする。
美術の先生が言っていた。
橋野は、美術部の数少ない部員の1人なのだと。
そういえば、似てる。
どことなく、似てる感じがする。
天宮と橋野は似てるんだ。
顔が似てるんじゃない。
第一、天宮は眼鏡をかけていないし。
一方の橋野は、分厚いレンズの眼鏡を常にかけている。
顔が似てるんじゃなくて。
そういうんじゃなくて。