さよならの魔法



「………私には関係ない!」


茜の言葉が、教室に虚しくこだまする。


関係ない。

関係がないなら、どうでもいい。


それが、茜の出した答え。



「私はいじめてないし、いじめられてない………。それでいいじゃない!」


初めて聞いた、茜の本音だった。



嘘だ。

嘘だろ。


茜が、そんなことを考えていたなんて。

茜が、そんな風に思っていたなんて。



俺が願ったことは、無茶苦茶なことだったのか。

高望みだったのだろうか。


無理なことだったのか。



十人十色。


この世界には、たくさんの人がいる。

同じ人間は、1人としていない。


まるっきり同じ考え方の人間はいなくても、似た価値観の人間はいるはずだろう。



どうしても譲れない。

どうしても許せない。


そういう考えって、誰にだってある。



俺にとっては、茜の考えが正にそうだった。



「そんなのって、あんまりじゃないか?茜は、自分がいじめられてなければ、それでいいの?」


俺の意見に、茜が首を横に振る。



「かわいそうだとは思うけど、しょうがないじゃない!だって、あの子をかばったら………私が標的になるかもしれないんだよ?」



虚ろな光を宿した茜の瞳が、残酷な言葉に反応し て揺らめく。



可愛いと思ってた。

好きだと思ってた。


自慢の可愛い彼女だと言われれば、素直に嬉し かったよ。



これから、もっと茜のことを好きになっていくはずだった。

そのつもりだった。


だけど、彼女から聞かされたのは、意外な考え。

意外な価値観。


生まれたばかりの恋に穴を開けるのに、その考えの違いは大きかった。



「ユウキだって、自分の彼女がいじめられてたら嫌でしょ?あの子と一緒にいじめられてたら、恥ずかしいでしょう?」


茜、それは言い訳だよ。


1番言ってはいけないこと。

1番口にしてはいけないことだ。



言い訳ばかりを口にする茜を、俺は醒めた目で見つめていた。



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