さよならの魔法



茜を傷付けない様に。

いつか離れる日が来るまで、上手く付き合っていこうだなんて、思い上がりでしかなかったのか。


俺って、演技が出来ないタチだったんだな。



茜には気付かれていても、仕方ない。

俺の不自然さに茜が気付くのは、当然のこと。


だけど、周りにまでバレていたなんて。

矢田にまで、気付かれてしまっていたなんて。



おちゃらけた矢田でも、ちゃんと見てるんだな。


周りのこと。

友達のこと。

好きだった女のこと。


矢田にまで気付かれているなら、茜はもうとっくの昔に分かっているはずだ。




「いろいろあるんだよ、俺達にも………。」


はっきり言えないことがもどかしい。

言葉を濁して答えるのが、やっとだ。


苦い笑みを浮かべた矢田が、俺を諭す。



「俺が言うことじゃないかもしれないけど、仲良くしろよ?」

「………。」

「茜ちゃんはいい子だぞ。茜ちゃんは………お前のこと、ほんとに好きなんだよ。」


分かってる。

そんなこと、言われなくても分かってるよ。



茜は、元々はそんなに悪い子じゃない。

だからこそ、主体的にいじめをしようとはしない。

いじめに関わろうとはしない。


自分にまで被害が及ぶのを恐れて、関わろうとしないだけ。

自分のことしか考えていないだけ。



俺とどこが違うのかと問われれば、いじめを止めようと思っているか、いないのか。

その1点だけ。


そこが、どうしても許せないんだ。

俺は。



いくら好きでいてくれても、考えていることが違う。

根本的なものが違う。


一緒にいて楽しくても、底にあるものがまるで違うんだ。

異質で、とてもじゃないけど受け入れられないもの。



ダメなんだ。

どうしても、ダメなんだ。



「かわいそうだとは思うけど、しょうがないじゃない!だって、あの子を庇ったら………私が標的になるかもしれないんだよ?」


茜がそんな風に考えてるって思うだけで、気持ちが醒めていく。



< 141 / 499 >

この作品をシェア

pagetop