さよならの魔法



ドキン。

ドキン、ドキン。


今日は1日ドキドキしっぱなしだけど、今日感じたどのドキドキよりも、今が1番ドキドキしてる。



頬が染まる。

熱を保って、赤くなっていく。


恥ずかしくて、尚更言葉なんて出てこない。



「お、………おはよう………。」


そう思っていたのに、私の唇はすんなりとその言葉を紡ぎ出した。




あんなに、言いたくても言えなかった言葉。

緊張してしまって、恥ずかしくなって、どうしても言えなくなってしまう言葉。


初対面の人を苦手に思う気持ちは、今も変わらない。



それなのに、挨拶してる。


意気地なしで。

弱虫で。

自分からは何も出来ない私が、おはようって言ってる。



それは、間違いなく彼のお陰。


紺野くん。

今日、初めて会った彼のお陰。

彼が、私の中に眠る言葉を引き出してくれたんだ。



私がおはようと言った瞬間、目の前にいる彼の表情が一際明るく変化していく。



私の心を惹き付けてやまない、その笑顔。

まだ幼さの残る笑顔が、私の中に広がる。


波紋の様に。

さざ波の様に。


彼の笑顔が、私の心にわずかな変化をもたらす。







これが、私と彼。

紺野くんとの出会い。


紺野 有樹。

今でも忘れられない、初恋の人との出会いだ。



きっと、ただのクラスメイト。

紺野くんからしてみれば、それだけの存在。


初対面のクラスメイトに、自分から挨拶しただけ。

それだけのこと。



でもね、私には違うんだ。

それだけのことじゃない。


とても大切な、始まりの1ページ。




まだ幼い私の初恋は、ゆっくり動き出す。


その結末が、悲しい方向へ向かっているとも知らずに。



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