さよならの魔法
『涙』
side・ユウキ






2月14日。

バレンタインデー。


それは、俺には縁のない行事だった。

去年までの俺にとっては。



彼女がいる今もそれほど興味が湧かないのは、その彼女と上手くいっていないから。


面倒。

憂鬱。


そう感じている俺は、薄情なのだろうか。

彼氏失格なのだろうか。



こんな風に思っているのは、俺だけなのだろう。

その証拠に、周りの男どもは浮かれている。

目に見えて、はしゃいでいる。


誰かから、チョコレートをもらえるのだろうか。

誰かから、呼び出されはしないだろうか。


みんな、ソワソワして待ってる。



正直に言うと、俺はこの日が来て欲しいとは思っていなかった。

むしろ、来て欲しくないとさえ思っていた。


俺に確実にチョコレートを渡してくるであろう、1人の女の子がいることを認識しているから。



増渕 茜。


俺の可愛い彼女。

周りから羨ましく思われることも多い、自慢であったはずの彼女。



最低だ。

最低だな、俺。


茜は、きっと俺の為にチョコレートを作っているのに。

俺のことだけを考えて、チョコレートを準備してくれているのに。


それを重いと感じてしまうなんて、最低だ。

最低以外の、どんな言葉で表現すればいいんだ。




最低で。

自分勝手で。


愛してくれる人の気持ちを重いと感じている俺は、彼氏失格だ。



俺の隣に、茜がいることが相応しくないんじゃない。

茜の隣に、俺がいることの方が相応しくないのだ。


俺の自分勝手な気持ちを飲み込んで、夜が明けていく。


気が付けば、朝。

バレンタイン当日を迎えていた。









(あー、ついに来たか………この日が。)


日が沈んで、夜が訪れる。

明けない夜はない。


やがては空が明るくなり、長い冬の夜も終わりを告げる。



当たり前のこと。

毎日繰り返されていることなのに、今日だけは気分がどうしても優れない。


こんなに朝が憂鬱なのは、久しぶりだ。



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