さよならの魔法



俺は、そのことが許せなかった。


だから、キスよりも先に踏み出せなかった。

茜がそこから先を望んでいると分かっていても、進めずにいた。


見過ごせなかったんだ。



茜も、気付いていたんだろう?


すれ違いを。

考え方の相違を。


別れたいと思うのは、全部俺のワガママ。

だから、俺のせいなんだよ。



「茜の考えてること、思ってること、感じてること………俺には受け入れられない。」

「え?」

「違うんだよ。俺と茜は………違い過ぎるんだ。」

「な、んで………?」


信じられない。

そう言いたげに、茜が瞳を揺らす。



根本的な部分が、茜とは違うのかもしれない。


心の奥の根っこの部分。

人に根付く、その人を形作る考え方というものが。


埋めたかった。

しかし、最後まで溝は埋められなかった。



「俺が悪いんだ。全部、俺が悪い………。」


あんなに浮かれて。

舞い上がって。


友達まで傷付けて、今はこうして茜まで傷付けている。



1番悪いのは、俺だ。


茜の考え方を理解したかったけど、それが出来なかった。

茜の為に、自分の考えを変えられなかった。


茜の全てを好きになることが出来なかった。



憎んで。

恨んで。


嫌いになれ。

俺のことなんて、大嫌いになってくれよ。



こんな男、好きになるんじゃなかったと。


愛する資格も、愛される資格も俺にはないんだ。

浮かれて簡単に始まることを選んだ、俺に全ての責任があるんだ。



「いや、嫌だよ!そんなの………、ユウキと別れるなんて考えられない!!」


俺は、茜と付き合い続けることが耐えられない。


隣にいても、苦しいんだ。

つらくなるだけなんだ。


これからも、きっと。



「茜のこと、もう傷付けたくないんだ………。俺は、最低なヤツだから。」

「それでもいいよ!何でもいいの………、ユウキと一緒にいられるなら、何でもいい!!」

「茜が思うほど、俺は………茜のことを好きになれない。………好きになれなかったんだよ。」


本当のことを告げるのは、いいことなのだろうか。

それとも、悪いことなのだろうか。


肩を落とした茜に思わず触れようとした手を、俺は自分の意思で止める。


それが、彼氏としての最後の言葉になった。



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