さよならの魔法
『壊れる心』
side・ハル







真っ暗闇で走ってる。

がむしゃらに走ってる。


手探りでも先が見えない様な闇の中を、私は1人で走り続ける。



苦しくて。

つらくて。

心臓が張り裂けそうで。


それでも、走り続けていた。

私はずっと、走っていた。




逃げたかった。

置かれた状況の全てから、逃げ出してしまいたかった。


私を執拗にいじめてくる、磯崎さんからも。

叶うことのない恋からも。


逃げたかったんだ。



走っても走っても、現実は変わらない。

そんなことで変わるなら、もうとっくの昔にやっている。


分かっていたのに。

そんなの、分かっていたはずだったのに。





結局、告白なんて出来なかった。

自分の想いを口にすることは叶わなかった。


これで良かったのだろうか。

本当に、これで良かったのかな。


それは、今でも分からない。



最初から間違っていたのだ。


紺野くんには、彼女がいる。

大切な人がいる。


それを知っていたのに、私はチョコレートを渡そうとした。

告白しようとしていた。



恋を諦めたいからと。

この恋を終わりにすることしか、頭になかった。


増渕さんの気持ちなんか、考えてなかったんだ。

紺野くんの大切な人の気持ちまで、私は思いやれてなかった。



私が告白をすることで、増渕さんがどう感じるのか。

紺野くんと増渕さんが、どう感じるのか。


そこまで、考えが至らなかった。



ほんとに、自分のことしか考えてなかった。

自分のことしか、見えていなかった。


罰が当たったんだ。

きっと。








「天宮さんがねー、紺野くんにチョコレート、渡すみたいだよ!!」


取り上げられた、水色の箱。

私の大切なもの。



「天宮さんはー、紺野くんのことが好きなんだって!」


磯崎さんの言葉が回る。

頭の中を駆け巡る。


その度に、胸がチクリと痛んだ。



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