さよならの魔法
『保健室』
side・ハル







あなたの笑顔が好きだった。

柔らかい笑顔が大好きだった。


あなたの笑顔は、寂しい心を解してくれたから。

その笑顔に、私は確かに癒されていたから。



細い目が、笑うともっと細くなって。


あなたが笑うだけで、心に風が吹く。

爽やかな風が吹き渡って、周りの空気まで澄んでいくの。



紺野くん。

紺野くん。


ねえ、紺野くん。



迷惑をかけたかったんじゃない。

困らせたかったんじゃない。


大切な人との仲を引き裂こうだなんて、思ってないよ。



好きだったの。

ただ、あなたのことが好きだった。


大好きだったの。

姿を見ているだけで泣きたくなるほど、君のことが好きだったんだ。



切ないくらい、あなたのことを想っていただけ。

他に、何もない。

何も望んでなかった。





教室になんて、もう行けない。

合わす顔なんて、ない。


苦しくて。

苦しくて。


あの日のことを思い出すだけで、胸が張り裂けそうになる。

心が壊死していく気がする。



少しずつ。

少しずつ。


私の心は、死んでいっているのかもしれない。



それでも思い出すのは、まだ好きだから。

好きという気持ちが、私の中から消えてくれないから。


好きだよ。

好きなの、紺野くんのことが。


でも、会えない。

好きだからこそ、紺野くんにはもう会えない。



思い通りに消えてくれたらいいのに。


この体も。

この心も。


消してしまえたら、楽になれる。

消えてくれたら、解放される。



消えたい。

いなくなりたい。


全てのしがらみから解き放たれて、楽になりたい。










中学に入ってから、3度目の春。


春は、私にとって特別な季節だ。



自分の名前と同じ季節。

大好きな人と出会った季節。


紺野くんと出会った季節が、再びこの小さな町に訪れる。



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