さよならの魔法



お父さんは、仕事を抜けてきたんじゃない。

休んだのだ。

仕事を休んでまで、裏で動いていてくれていた。


お母さんがいる手前、仕事に行くフリをして。



私が、少しでも学校に行きやすくなる様にと。

私をこうして連れてくる前に、前もって環境を整えたいが為に。


全て、私のことを思ってのこと。

私の為だけに、お父さんは仕事を休んで走り回ってくれた。


そうして、最後に、私のことを迎えに来てくれたのだ。






お父さん。

お父さん。


信じてくれって、こういうことだったんだね。


お父さんの言葉に、嘘はなかった。

嘘なんて、1つもなかった。



誰のことも信用出来ない。

したくない。


信じても、裏切られるだけ。

人は簡単に、他人を裏切る生き物だから。



そう思って、私は自分の殼に閉じ籠っていた。


固い殼を作って。

その中に身を置くことでしか、自分を守れなくて。


親に言ったところで、どうにもならない。

そう信じていたけれど、それは間違いだったんだ。



他の人は分からない。


だけど、お父さんは裏切らない。

お父さんだけは信用出来る。


信じたいんだ。

だって、世界でたった1人しかいない、私の父親だもの。



「お父さん………、おと、うさん………っ!」


涙が溢れる。

気持ちが零れる。


娘を思う親心に、胸か詰まる。



「無理に行けとは言わない。………ハル、決めるのはお前自身だ。」



お父さんのその言葉に、私は何度も首を横に振った。



「………行くよ、私。私、ちゃんと学校に行く………。」










春の終わり。

自分の名を冠した季節に動き出した、私の時間。


私の時計の針を動かしたのは、父親。




頑なだった私の心を溶かしたのは、お父さんだった。



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