さよならの魔法
ずっと学校に来ていなかったクセに、今頃顔を出して。
そんな風に陰口を叩かれるのが、目に見えていたから。
臆病者だと言われても、私は怖くて仕方なかった。
それだけ、学校に行くということは、私にとって勇気のいることだったのだ。
「天宮さん、あなたのお父様がね、職員会議の前に学校に来て、先生方と交渉して下さったのよ。」
それまで無言で私とお父さんのやり取りを聞いていた立花先生が、ようやく口を開く。
それは、私が家にいる間の出来事。
私の知らぬ間に、お父さんが動いていたという事実。
「天宮さんは、3年1組だったわね?」
「………はい。」
そう。
2年から3年に進級する時には、クラス替えはない。
去年のクラスのままで進級するから、私は3年1組になっているはずだ。
「担任の佐藤先生とも掛け合って、熱心にあなたのことをお話してらしたわ。」
立花先生の言葉に目を閉じれば、思い浮かぶのは職員室での光景。
敵ばかりの中。
知らない先生ばかりの中、必死に交渉しているお父さんの姿。
お父さんは、きっと気付いてる。
いじめのこと。
私に、何かが起きたこと。
だから、教室に行かなくても済む様に手を回した。
そう出来る様に、交渉したのだ。
いじめを認めない先生もいただろう。
佐藤先生だって、そんな先生のうちの1人だ。
悪い先生ではないのだろう。
普通に通っている生徒からしてみれば。
でも、自分のクラスにいじめという陰湿な出来事があったことを認めたがらない人だったということは知っている。
うちに説得に来た時だって、ちょっとからかわれたくらいだと言った。
気にすることはないと、軽々しくそう言った。
知っていたはずなのに。
磯崎さんがやっていたことを、その目で見ていたはずなのに。
私が頑ななまでに説得に応じなかったのは、先生という存在を信用出来なくなったことも一因としてある。