さよならの魔法



元から、仲の悪かった両親だ。

一緒に暮らしているのが、不思議だったくらい。


小さなこの町に、お互いの実家があるうちの両親。

この町出身の両親は、離婚してからも同じ町に住むものだとばかり思っていた。


しかし、私のその予想は呆気なく否定されることとなった。



「ハル、お父さんはな、東京に行くんだ。」


苦笑いを浮かべたお父さんが告げる、新たな道。



「東京に昔の知り合いがいて、会社を経営している。一緒に働かないかと、誘われているんだ。」


お父さんに、そんな知り合いがいたのか。

私の知る人間関係だけが、全てではなかったらしい。


初めて聞くその話に、私は押し黙ってしまう。



無言になってしまったのは、その姿を思い浮かべられないせいだ。


この町を出て、都会の真ん中で働く父親。

それが、どうにも想像出来ないのだ。


ずっとこの町にいたお父さんが、この町を出ていく。

生まれ育った町を捨て、実家があるこの町を出ていくのだ。



「私は、この町に残るわ。親戚や兄弟もこっちにいるし、この人みたいに薄情にこの町を出ていくことなんて出来ないわ。」


そう言ったのは、お母さん。

私を産んだ、実の母親。



「慰謝料も、もらえることになったの。この家もくれるって言うし、出ていく理由なんてないわ!」


嬉々として、そう語るお母さん。

夫に対しての未練は、これっぽっちもないらしい。


お母さんらしいと言えば、それまでの話だけれど。



委ねられたのは、これからどう生きていくか。


私自身が、どこへ行くのかということ。



「ハルは、どっちに付いてくる………?」


そんなの、決まってる。

迷う必要なんて、ないじゃないか。



「私、………お父さんと一緒に行く。」


私は、私を必要としてくれる人と生きていきたい。

私を愛してくれる人と、これから先の人生を歩いていきたい。


私を愛してくれている人。


それは、きっとお父さんだ。



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