さよならの魔法



引き留められなかったことに、寂しさを感じなかった訳じゃない。


だけど、これでいいと思った。

これで良かったのだ。



お父さん、ごめんね。

離婚をして大変になるのに、とんだ荷物を背負わせることになってしまった。


慰謝料もある。

住み慣れた家さえ、失うことになった。



「お父さんのこと選んで、ごめんなさい………。大変な時なのに、私の面倒まで見ることになって………ごめんね。」


そう言ったら、お父さんには叱られてしまった。



「何を言ってるんだ!ハルはバカだな………。」


私の頭を撫でるお父さんの手が、温かい。

大きくて優しいその手が、私を導く。



「だって………」

「ハルが一緒なら、心強いよ。ハルのこれからを、ずっと隣で見ていけるんだ。」

「お父さん………。」

「お父さんのことを選んでくれて、ありがとう。」



私はこれからも、お父さんの傍で生きていく。

この町を捨てて、お父さんと一緒に歩いていく。


そう決めた瞬間だった。









年が明けてすぐ、向こうの高校を受験した。


出席日数があまり多くはないから、そのことだけが気がかりだったけれど、それでも何とか公立高校に合格出来た。


公立を選んだのは、もちろんお父さんの為。

これ以上の負担をかけない為だ。




学校に報告したのは、3月の始め頃。

卒業を間近に控えた日のこと。


担任の佐藤先生には特に何も言われず、あっさりと別れを告げられた。



「佐藤先生、お世話になりました。両親が離婚することになって、………この町を離れることになったんです。」

「あら、そう。」

「卒業したらすぐ、東京に行くことになりました…………。」

「大変ね、あなたも。向こうでも、頑張ってちょうだいね。」

「………はい。」



不登校児なんて、いない方がいいのだろう。

その方が、担任の教師の評価も上がるはずだ。


私は、あのクラスの厄介者でしかなかった。



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