さよならの魔法



2年の頃のままだ。

別れたあの頃のまま、止まっているんだ。


俺と茜だけが。



「わ………たし………、私、ユウキが好きなの。別れる前から、別れてからだって、ずっとユウキのことが好きだった………!」


切ない想いを吐き出す茜に、俺は何もしてやれない。


慰めてあげることも。

抱き締めてあげることも。

好きだよと囁いてあげることも、俺にはもう出来ないんだ。


俺の心が、それを許さないから。



俺は、また茜を傷付ける。

今までも茜のことを傷付けてきたのに、再び茜の心に傷を刻まなければならないのだ。


でも、茜の言葉には頷けない。

頷けば、自分の心に嘘をつくことになる。



嘘なんて、つけない。

俺が嘘をついて、茜を受け入れたところで、誰が幸せになれるのか。


そんなの、決まってる。


誰も、幸せになんてなれない。

嘘で塗り固めた恋に、幸せな結末なんて用意されていないのだ。




好きだったよ。

軽い気持ちで始まったかもしれないけれど、好きになりたいと思ってた。


可愛いって、そう思ってたよ。



だけど、もう茜に恋愛感情は抱けない。

そう思えてしまうほど、茜の内面を知り過ぎてしまった。


これだけは断言出来る。


茜とやり直すことだけはないと。

茜に再び恋をすることだけは、ないのだと。




「好き………だよ、ユウキ………。ユウキのことが好きなの。」

「茜、俺は………もう………」

「やり直そうよ………。もう1回、私と付き合おうよ!今度は、今度はちゃんとするから!!」


そうじゃない。

そうじゃないんだ。


茜だけが悪いんじゃない。

むしろ、悪かったのは俺の方だ。



ちゃんとしてたよ。

茜は、彼女らしい彼女だった。


彼氏らしくなかったのは、俺だ。



愛せなかった。

茜の全てを受け止めてやれなかった。


しがみ付いて泣く茜に、俺はこう告げた。



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